すずめの戸締り と それぞれの3.11
札幌でも非常にロングラン上映になっております、新海誠氏の映画「すずめの戸締り」は皆さまごらんになりましたでしょうか。私は上映開始週と先週に2回視聴しに映画館に行きました。
過去に公開されていたの冒頭15分の動画からも分かる通り、12年前の3月11日、東日本大震災の東北を彷彿とさせる描写が存在します。実際には、東北震災そのものではないのですが、それはごらんになっていただきたいですね。
宮崎県南に住む岩戸鈴芽は、閉じ師である宗像宗太と出会い、災害の予兆であるミミズの出てくる扉「後ろ戸」を閉じていくという仕事に巻き込まれていくというストーリーです。物語は様々な人との交流を経ながら、東へ、北へと進み、最終的には鈴芽の故郷である岩手県宮古にまでたどり着くのです。
私の感想をまず先に書きます。
まずは風景、空の美しさです。新海氏の描く空は、主人公たちの心情や現状を映す鏡であり、美しさも壮絶な破壊ももたらす場所です。「君の名は」のティアマト彗星に始まったことではなく、「雲の向こう、約束の場所」においても、主人公たち共通の憧れの場所であり、敵国の兵器の置かれた戦場でもあったわけです。
今回の作品においても、美しき死の世界、雄大な景色に伸びていくミミズ等圧倒的な描写は劇場で見てほしい作品だなと感じました。
次に、各地での人物の描写です。主要な登場人物はもちろんのことなのですが、表現としてその土地土地の人の過去の思い出が主人公に流れ込むシーンがあります。地方の漁村から廃校、遊園地に至るまでその土地でゆかりのあった人の記憶がです。
私も廃屋や廃墟を見るのが好きなのですが、それは何かしらの目的をもって建設され、そして放棄された物語があったと感じるからです。新海氏もまた同じような視点で見ているのだろうなと感じました。
アクションシーンも見ごたえがあり、テンポよく進むストーリーも相まってあっという間に時間が過ぎていきました。
題材は間違いなく地震、大災害です。これまでも氏の作品は「セカイ系」と評されることも多く、2000年代頃に流行したそれを多分に浴びた存在であることは間違いないでしょう。
ただ、過去の作品で描かれた世界の危機は「君の名は。」では彗星の落下であり、「雲の向こう、約束の場所」では空間位相変化で地球が呑まれる、という私たちの日常に経験がなかなか起きにくいものでした。
今回の作品では、日本では年中通じて起きる大小の「地震」を主軸で取り上げることで、老若男女に共感する作品になったことは間違いないと考えています。今も全国の閉じ師たちが、各地で後ろ戸を閉めて地震を小さくしているのかも、と考えると楽しいですよね。
そして、地震災害で外すことができないのは劇中でも取り上げられている東日本大震災でしょう。
私は秋田で学生をやっていました。秋田は被害が少なかったのですが、停電を経験し、翌朝に山の向こうの惨状を知りました。
実際に現地を訪れたのは2年が経過した後でした。宮城県若林区、海岸から10km程入った場所でしたが、津波の後のがれきの除去はまだまだ続いており、そのボランティアでした。陶器の破片やプラスティック片が主に回収できたと思います。
活動の終了後、沿岸の荒浜地区へと向かいました。遠めに見るとずっと田園地帯が続いていると思っていたその場所には、近づくにつれコンクリートの基礎だけが規則正しく立ち並んでいました。
それを認めた瞬間に、戦慄しました。ここには数百の家族の営みがあり、それが一瞬にして失われたのだろう、と想像が廻ったからです。涙があふれていました。一緒に行っていた他の学生もかつての町が近づくにつれて言葉を失っていました。
これが私の震災です。たぶん、当時を生きた人はそれぞれの震災があるのだと思います。ボランティアに参加した人、寄付した人、神社で祈った人、生活習慣を変えた人、それが皆様の震災です。それぞれの、あの日からの日常が始まったのだと私は考えています。
すずめの戸締りは私たちすべての震災へのモニュメントのようなものになったのだと感じます。鈴芽には鈴芽の、私たちには私たちの災害への思い出を振り返るとともに、前に進むために必要な場所といったかんじでしょうか。
長々と書きましたが、非常にお勧めできる映画です。何卒、スクリーンで見れるうちに足を運びください。
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